中国が「インラック失脚」に落胆した理由

樋泉克夫

 インラック首相の失職は、中国の東南アジア進出の将来に思わぬ障害になるかもしれない――。

 2012年春、インラック首相(当時)は訪日の途次、官民合同の大デレゲーションを引き連れて訪中している。つまり、外遊ルートは北京経由東京着、であった。その際、北京・天津間の高速鉄道に乗車し、中国との協力による高速鉄道建設計画を打ち上げた。じつは、インラック前政権は政権発足時から、バンコクを起点に、北部路線(ピサヌロークまで)、西部路線(ホワヒンまで)、東北部路線(コーラートまで)、東部路線(パタヤまで)の4路線を2022年までに完成させることを政策の柱に掲げていた。いわば高速鉄道網による国土改造である。

 中国側は、総延長1800キロに及ぶ高速鉄道プロジェクトに当初から強い関心を示していたが、鉄道建設というハード面もさることながら、東南アジア大陸部の中心に位置するだけでなく、マレーシアとシンガポールを経て南下することで東南アジア島嶼部と直接リンクできるタイの地政学的条件に着目してのことだろう。さらなる“熱帯への進軍”を目指し、将来的には東南アジア全域の経済活動の主導権を握るためには、やはり東南アジア全域の物流ネットワークのハブに位置するタイを押さえておく必要があったわけだ。

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執筆者プロフィール
樋泉克夫
樋泉克夫 愛知大学教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年より現職。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
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