クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?
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サダム裁判を見るだに滑稽な「東京裁判」信奉

徳岡孝夫
執筆者:徳岡孝夫 2006年5月号
カテゴリ: 国際
エリア: 中東 北米

 午前中の法廷では、彼の罪状を指摘する証言が長々と続いた。午後になって、やっと被告人サダム・フセインに発言が許された。場所は三月十五日のイラク特別法廷。その模様はバグダッドの記者室にリアルタイムでテレビ中継されている。 サダムは立ち上がった。二人の息子は殺され、米ドルの現金を持って穴蔵に隠れているところを捕まったとは見えない。ネクタイこそ締めていないがバリッとしたダークスーツに身を固め、敗残者のカケラも感じさせない、自信満々の態度。「私はイラク共和国大統領、また国軍最高司令官として言う。この裁判は一場の喜劇である。サダム・フセインとその同志を陥れんがための喜劇だ。力強きイラク国民よ、犯罪的な占領軍の手により私と私の同志の身には大きい変化が起った。だが私は、依然としてイラク国民の忠実な息子であり剣である」 人道に対する罪で裁かれている者の言うこととは思えない。目を剥き、右手を振り上げ、サダムは判事席を睨み据えて演説を続けた。「犯罪者たちは、大量破壊兵器があると偽りの理由を設け、イラクを侵略し占領した。神聖なるモスクを灰燼にした。かつて私を択んで大統領にしたイラク国民よ、身内の抗争を止めよ。団結して占領軍を殺せ」

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫
徳岡孝夫 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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