中東―危機の震源を読む
中東―危機の震源を読む(18)

イスラエルとの特別な関係を自問し始めたアメリカ

池内恵
執筆者:池内恵 2006年6月号
カテゴリ: 国際
エリア: 中東 北米

 三月の末から四月を通じて世界の中東論を賑わしたのは、ジョン・ミアシャイマーとスティーブン・ウォルトの共著論文「イスラエル・ロビー」(英『ロンドン・レビュー・オブ・ブックス』誌三月二十三日号)だった。ミアシャイマーはシカゴ大学の政治学教授、ウォルトはハーバード大学の政治学教授でケネディ行政大学院の院長を兼ねる。共に国際政治学の「リアリスト(現実主義者)」を代表する重鎮である。 この論文には長短二種類があり、長い方は三月十三日にハーバード大学ケネディ行政大学院のウェブサイトに、二百十一もの注を付したワーキングペーパー(報告書)として掲載された。こちらには「イスラエル・ロビーとアメリカ外交政策」というタイトルがついている。 論文が捲き起こした反響を踏まえて筆者二人は『ロンドン・レビュー・オブ・ブックス』誌の五月十一日号で主要な批判に応えており、論議は一巡した感がある。そこで、論争の経緯と意義を振り返っておきたい。 まずミアシャイマー/ウォルト論文の概要を示しておこう。論文では、アメリカの中東政策が第二次世界大戦後、とくに一九六七年の第三次中東戦争以来の四十年間、イスラエルとの特別な関係を維持することを最重要課題にしてきたという認識を示す。韓国やスペイン並みの一人当たりGDP(国内総生産)を誇るイスラエルに対し、アメリカは毎年三十億ドルもの直接援助を「年度はじめに一括で支払い、使途を問わない」という好条件で行なってきた。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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