インテリジェンス・ナウ

「ザルカウィ殺害」でもイラク情勢は好転しないと言える理由

執筆者:春名幹男 2006年8月号
カテゴリ:
エリア: 中東 北米

「われわれはワシントン・ポストとニューヨーク・タイムズしか重視してないんだよ」 約二十年前、親しくしていたチャールズ・レッドマン米国務省報道官にそんなことを言われたことがある。その他の報道機関が何を書こうと相手にしない。ポストとタイムズにだけは“きちんと”書かせるという意味でもある。両紙に重要情報をリークして、世論の流れをつくるという米政府の手法だ。 米軍が「イラク聖戦アル・カエダ組織」を率いていたザルカウィ容疑者を殺害した直後の報道もその好例だ。両紙の記事には、共通のファクトが多い。 米情報当局は、ザルカウィ容疑者の宗教顧問、アブドルラフマン師を追跡した結果、ザルカウィ容疑者の所在を把握することができた。同師がザルカウィ容疑者と近い関係にあり、二人は必ず会う、という情報は、五月にヨルダン情報機関がイラク国境近くで捕まえたアル・カエダ組織の中級幹部、自称ジアド・ハラフ・アル・ケルボウリから得ていた。同師は、イスラム教スンニ派指導者との連絡係を務め、テロリスト予備軍のリクルートから資金集めまで担当した。まさにザルカウィ容疑者の右腕だったようだ。

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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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