「聞き書き」の意味を問い直す(上)思い出のハンバーグ

六車由実
執筆者:六車由実 2014年8月2日
エリア: 日本

 増村紀子さん(仮名・昭和13年生まれ)がすまいるほーむにやってきたのは、昨年の7月下旬であった。紀子さんは、公営住宅に独り暮らし。レビー小体型認知症を患い、幻覚や被害妄想の症状があるため、生活上に様々な困難な問題が出てきたり、他の住民とのトラブルも多くなっていた。たとえば、物が無くなるという妄想のために警戒して長い間自宅で入浴ができていなかったり、また、気づくとベッドの上に男の人が座っているという幻視のために、夜間はベッドに横になれず、居間の座椅子でうとうとすることしかできなかったり。あるいは、隣の住民が知らないうちに家に入ってきて物を盗んでいくという被害妄想のために、隣の住民に抗議に行ったりすることも度々あったという。

 認知症の症状ばかりでなく、両耳が重度の難聴であることも、紀子さんが社会生活をしていくことを困難にさせていた。10年程前から徐々に耳が聞こえにくくなり、現在は補聴器をつけても玄関のチャイムの音がかすかに聞こえる程度にまで難聴は進み、発語はできても耳を使ってのコミュニケーションはできなくなってしまったという。外部の音から遮断された中での独り暮らしが、認知症に加えて、更に彼女の妄想や幻覚を助長することになってしまったのかもしれないとも思う。

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執筆者プロフィール
六車由実
六車由実 1970年静岡県生まれ。民俗研究者。デイサービス「すまいるほーむ」管理者・生活相談員。社会福祉士。介護福祉士。2008年に東北芸術工科大学准教授を退職し、静岡県東部地区の特別養護老人ホームの介護職員に転職。2012年10月から現職。「介護民俗学」を提唱し実践する。著書に『神、人を喰う』(第25回サントリー学芸賞受賞)、『驚きの介護民俗学』(第20回旅の文化奨励賞受賞、第2回日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞)。
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