「ある華人の回想」から浮かぶカンボジアと中国「複雑微妙」な関係

樋泉克夫

 一時は資金不足や内外の政治的事情から維持が危ぶまれていた、自国民を標的としたポル・ポト派の“国家犯罪”に対する裁判が 、どうやらカンボジアでは続いていたようだ。8月7日、首都プノンペンの特別法廷は、ポル・ポト政権で人民代表議会議長だったヌオン・チア(88歳)と、国家幹部会議長だったキュー・サムファン(83歳)の両被告を裁いた。

 裁判における最大の争点は、1975年から77年にかけてポル・ポト政権が実施した都市住民の農村部への強制移住によって、200万人超ともいわれる人々が餓死・病死した事実である。被告側は、自国民に対するジェノサイドとでも呼ぶべき蛮行を、「米軍の爆撃情報があり、避難させるためだった」と抗弁したが、裁判官は受け入れず、求刑通りに最高刑の終身刑を申し渡した。判決を不服とする被告側弁護団は、2審制に従って控訴している。

 だが、彼らの犯した罪の重大さを考えると、今回の判決が覆る可能性は極めて低いだろう。同時に、両被告の年齢を考えるなら、おそらく彼らは被告人のままで人生を終えることになるのではないか。つまり、“ポル・ポト派の真実”が解き明かされないままに、両被告が一切の秘密を封印したまま、あの世に旅発つことになる可能性は限りなく大だ。

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執筆者プロフィール
樋泉克夫
樋泉克夫 愛知大学教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年より現職。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
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