EU「新首脳人事」とウクライナ危機

 ウクライナ情勢が揺れている。

 NATO(北大西洋条約機構)が、9月初めの首脳会議で新たに緊急即応部隊の編成を決議し、今般の情勢に重い腰をあげる兆しを一応みせ、ウクライナ、ロシアとOSCE(欧州安保協力機構)の間でも停戦に合意した。しかしヨーロッパの対応がこれで断固たるものとなったとは必ずしも言いがたい。先ごろ行われたEU(欧州連合)首脳人事にそれは明らかである。

 

旧東欧諸国初のリーダー

 8月末、EUの次期「大統領」(正確には欧州理事会=EU首脳会議=常設議長)に、ポーランド首相ドナルド・トゥスク氏、次期「外相」(外交安全保障上級代表)にイタリアのフェデリカ・モゲリーニ外相が選ばれた。12月1日に就任する。欧州理事会常設議長のポストは、2009年に発効したEUのリスボン条約で新設された。それまで半年任期の輪番制であった首脳会議議長を常設ポスト(1期2年半)に格上げし、EUの議事運営を安定化させるためであった。首脳会議の最重要職であることと、呼称が常任議長(プレジデント)であることもあって、俗称「大統領」とも呼ばれる。

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執筆者プロフィール
渡邊啓貴(わたなべひろたか) 帝京大学法学部教授。東京外国語大学名誉教授。1954年生れ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程・パリ第一大学大学院博士課程修了、パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校・ボルドー政治学院客員教授、シグール研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員教授、外交専門誌『外交』・仏語誌『Cahiers du Japon』編集委員長、在仏日本大使館広報文化担当公使(2008-10)を経て現在に至る。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)、『フランス現代史』(中公新書)、『ポスト帝国』(駿河台出版社)、『米欧同盟の協調と対立』『ヨーロッパ国際関係史』(ともに有斐閣)『シャルル・ドゴ-ル』(慶應義塾大学出版会)『フランス文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店)『現代フランス 「栄光の時代」の終焉 欧州への活路』(岩波書店)など。最新刊に『アメリカとヨーロッパ-揺れる同盟の80年』(中公新書)がある。
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