クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?
クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

戦争の形態

徳岡孝夫
執筆者:徳岡孝夫 2014年9月12日

 20世紀は、僅か100年の間に、2度も大戦争をやった。もう懲りただろうと思ったのに、平和は5年しか持たなかった。北朝鮮軍が南へなだれ込み、一時は釜山に迫った。

 その頃、私は学生だった。父は大阪・船場で、繊維の卸商をしていた。住居を兼ねた事務所の電話が鳴った。少し長い会話だった。

 夕食のとき、父がその電話の話をした。

「××はん(現在は大商社になっている)からの引き合いやった。パラシュート500枚分の絹布、明日までに都合つかんかと言うんや。開いても開かんでもええというが、わしゃそんな阿漕な商売しとうないから断った」

 私は自分と同年輩のアメリカ人海兵隊員が、北朝鮮軍の背後へ、輸送機のドアから飛び出した瞬間を想像した。パラシュートが開かない。彼は誰を呪いながら死ぬのだろう。

 呪われた商社は大きくなり、いまや飛行機を輸入するようになった。人類も戦争をすることによって儲けた。ベトナム戦争、4度の中東戦争、すべて皮肉にも科学の進歩と人類の繁栄に役立った。親分の米ソが睨み合い、子分と子分が代理戦争をする。その図式(冷戦と呼ばれた)は延々と続き、1989年にやっと終わった。パラシュートは不要になった。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫
徳岡孝夫 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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