共に食べる(下)喜びを分かち合う場へ

六車由実
執筆者:六車由実 2014年11月1日
エリア: 日本

食への強い欲求

 すまいるほーむで働き出して2年になったが、食事は基本的にほとんどの利用者さんが自立して食べているので、特養で経験した一体感を味わえるような食事介助の機会はめっきりと減ってしまった。それが、少しばかり私には寂しく感じられていた。もちろん、すまいるほーむにも、要介護4、5の認定を受けている重度の利用者さんは何人もいて、排泄や入浴などの身体介護は全介助で行っている。しかし食事に関しては、ご飯の上におかずを載せてあげたり、こぼれないようにお椀に手を添えてあげたりするなどの部分的な介助だけで、あとは、みなさん、どうにかこうにかスプーンやフォークを使って自力で食事を摂ることができている。それはある意味すごいことである。

 たとえば、要介護度5の三好一枝さん(仮名)は、手先の関節が硬直していて、指をうまく動かすことが難しい。だから、レクリエーションでの手作業や手先を動かす体操も、痛みを感じてなかなか行うことができない。ところが、食べることが大好きな一枝さんは、食事の時間になると、硬直した指でも器用にスプーンやフォークを支えて持って、ごはんをすくったり、おかずを刺したりして、食べることができる。こぼれそうになれば、左手の指も使って食べ物を支えて、口に運んでいる。その時は、指の関節の痛みは忘れているようである。

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執筆者プロフィール
六車由実
六車由実 1970年静岡県生まれ。民俗研究者。デイサービス「すまいるほーむ」管理者・生活相談員。社会福祉士。介護福祉士。2008年に東北芸術工科大学准教授を退職し、静岡県東部地区の特別養護老人ホームの介護職員に転職。2012年10月から現職。「介護民俗学」を提唱し実践する。著書に『神、人を喰う』(第25回サントリー学芸賞受賞)、『驚きの介護民俗学』(第20回旅の文化奨励賞受賞、第2回日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞)。
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