病気を治すのは「いのちの力」
病気を治すのは「いのちの力」(2)

満足する医療を受ける難しさ、患者を満足させる難しさ

執筆者:髙本眞一 2014年12月7日
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 友人の紹介で86歳の大動脈弁閉鎖不全症の女性の患者さんが三井記念病院に来院しました。某大学病院で診療を受けていて、「すぐに手術が必要」と言われたそうなのですが、誰にとっても心臓の手術は怖いもの。このおばあちゃんも、「手術以外に方法はないのか。どうしても手術は受けたくない。別の先生に診てもらいたい」と周囲に漏らし、まわりまわって、私の患者さんになることになりました。

 大動脈弁閉鎖不全症は、心臓に雑音が聞こえることで発覚するのですが、最初は、ほかに自覚症状らしい症状はほとんどありません。それもあって、おばあちゃんは、手術が本当に必要なのかと疑ったのかもしれません。

 同疾患は、心臓の弁がうまく機能せず、左心室に血液が逆流して左心室の大きさが拡張し、症状が進むと重度の心不全に陥り死にいたる場合もあります。手術としては、人工弁の置換が有効です。

 私が超音波で心臓の状態を見た結果、左心室のサイズはそれほど大きくなってはおらず、急いで手術をしなければならないという状態ではありませんでした。

「今すぐに手術しなくても大丈夫。少し様子を見ましょう」

 おばあちゃんにそう話すとえらく喜んでくれました。もちろん、手術をしなくても絶対に大丈夫というわけではありません。左心室が大きくなれば、手術が必要になる。とはいえ、必ず左心室が大きくなるとも限りません。もしかして、大きくならない可能性もあるわけです。手術には必ずリスクがあります。したがって、本当に必要な状況でなければ手術は行わないにこしたことはありません。

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執筆者プロフィール
髙本眞一 1947年兵庫県宝塚市生れ、愛媛県松山市育ち。73年東京大学医学部医学科卒業。78年ハーバード大学医学部、マサチューセッツ総合病院外科研究員、80年埼玉医科大学第1外科講師、87年昭和病院心臓血管外科主任医長、93年国立循環器病センター第2病棟部長、97年東京大学医学部胸部外科教授、98年東京大学大学院医学系研究科心臓外科・呼吸器外科教授、2000年東京大学医学部教務委員長兼任(~2005年)、2009年より三井記念病院院長、東京大学名誉教授に就任し現在に至る。この間、日本胸部外科学会、日本心臓病学会、アジア心臓血管胸部外科学会各会長。アメリカ胸部外科医会(STS)理事、日本心臓血管外科学会理事長、東京都公安委員を歴任。 ↵手術中に超低温下で体部を灌流した酸素飽和度の高い静脈血を脳へ逆行性に自然循環させることで脳の虚血を防ぐ「髙本式逆行性脳灌流法」を開発、弓部大動脈瘤の手術の成功率を飛躍的に向上させたトップクラスの心臓血管外科医。
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