行き先のない旅
行き先のない旅(43)

王立歌劇場が刑務所でコーラスを教える理由

大野ゆり子
執筆者:大野ゆり子 2006年12月号
カテゴリ: 国際 文化・歴史
エリア: ヨーロッパ

 先日、ベルギーの刑務所を訪問する機会があった。今秋からベルギー王立歌劇場が、刑務所の中でコーラスの指導を始めることになり、服役者の中から参加希望者を募る説明会に出かけたのだ。 訪れたL市の刑務所にいるのは、刑期十年以上の受刑者。死刑が廃止されているこの国の中では、殺人、強盗など重い罪を犯した人々が収監されている。百年前に建てられた、赤レンガに白の縁取りが特徴のフランドル建築の刑務所の門をくぐって、身元確認と持ち物検査を受ける。ベルギー国内では、いまだに解決していない二十八人の服役者の集団脱走事件などが、夏に立て続けに起きたこともあり、警備はもちろん厳しい。 鉄格子のはまった扉のある曲がりくねった通路をいくつも通り過ぎると、左右に二階建ての独房が並ぶ、大きめの廊下に出た。文化祭のブースのようにこの一角に陣取り、劇場の担当の女性と私は、チラシを用意したり、ビデオを流して、コーラスへの勧誘の準備を始めた。刑務所側とのコーディネーターをしてくれているのは、この刑務所で一週間に一回、受刑者と外界をつなぐボランティアの女性だ。重い犯罪の場合、家族が受刑者との関わりを望まないケースも多いという。その場合に必要に応じて家族と連絡をとったり、銀行や役所などの書類手続きを家族の代わりに行なうのが、このボランティアの仕事だそうだ。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子
大野ゆり子 エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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