中東―危機の震源を読む
中東―危機の震源を読む(25)

イラク研究グループの重要かつ初歩的な提案

池内恵
執筆者:池内恵 2007年1月号
カテゴリ: 国際
エリア: 中東

 ベーカー元国務長官とハミルトン元下院議員が共同代表を務め、米政界の長老的な有力者たちが超党派で名を連ねた「イラク研究グループ」の報告書が十二月六日に発表された。本文と資料で百四十二頁。九十六頁ある本文は現状認識と政策提言の二部に分かれている。政策提言の部はイラクをめぐる周辺国との外交的協調や環境整備を求める「外部からのアプローチ」(十八の提案)と、イラク政府の統治能力向上の方策や米国の対イラク関与体制の刷新を提唱する「内部からのアプローチ」(六十一の提案)からなる。 グループが発足したのは二〇〇六年三月だったが、当時はそれほど注目されてはいなかった。十一月の米中間選挙に際してブッシュ政権のイラク政策に対する批判の民意が想像以上に明確に表出されたことによって、急速に重要性が増した。これが直接にブッシュ政権のイラク政策や中東外交の今後の方向性を決定づけるものではないが、米国のイラク政策の、党派的な思惑を極力排した公平な現状評価としての精度は高い。今後の対イラク・対中東の政策論で一つの基準・試金石となるだろう。 何よりも重要なのは、この報告書の発表に多大な注目が集まったという事実そのものかもしれない。「多くのアメリカ人は、単にイラクの情勢について不満なだけではない。イラクをめぐる我々の政治の議論のあり方に不満なのだ」という冒頭の一節には、報告書作成メンバーだけでなく、これを受け止める国民に広まる苛立ちが表出されたといえよう。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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