【インタビュー】フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク(映画監督) 監視し密告した人々も抱いた「消極的ヒロイズム」の力

執筆者:草生亜紀子 2007年1月号
エリア: ヨーロッパ

「ベートーベンのソナタ『ア・パッショナータ(熱情)』は素晴らしい、しかし音楽に身を浸すと甘い気持ちになって革命が完遂できない」――革命家レーニンがこう語ったという作家マクシム・ゴーリキーの回想が発想の原点だった。ドイツ映画『善き人のためのソナタ』のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督(三三)は語る。 ベルリンの壁が崩壊する五年前、一九八四年十一月の東ベルリンを舞台にしたこの映画は、反体制派の疑いがかかる劇作家と恋人の女優を監視するよう命じられた国家保安省(シュタージ)のヴィースラー大尉が、二十四時間態勢の盗聴によって二人の私生活に触れるうちに、彼らの世界観や人間性、愛情あふれる暮らし、そして彼らが奏でる美しいソナタに感化を受け、次第に変化していく様子を描いた秀作だ。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
草生亜紀子(くさおいあきこ) 翻訳・文筆業。NGO職員。産経新聞、The Japan Times記者を経て、新潮社入社。『フォーサイト』『考える人』編集部などを経て、現職。
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