行き先のない旅 (44)

北欧の光と闇の魔力

執筆者:大野ゆり子 2007年1月号
エリア: ヨーロッパ

 外に出ると、すでに夕闇が迫っていた。思いのほか美術館に長居したのかと慌てて時計を見ると、まだ午後二時半だ。ストックホルムでの冬の一日はこの調子で暮れていくらしい。 スウェーデン国立美術館では、十九世紀から二十世紀初頭のスカンジナビアの画家たちが、北欧ならではの風景をどのように描いたかというテーマの美術展を行なっていた。うっそうと茂る森、湖の澄み切った水面に映る真昼のような白夜の青空、雪解け水が堰をきって流れる壮観な春のフィヨルド――。 興味深いのは、北欧の美術史では、自然を美化せずにあるがままに描く「写実主義」から、表向きは具象画のように見えても、その裏に画家が自分の主観的な心象風景を潜ませている「象徴主義」に突然移行してしまうことだ。フランス美術史の変遷のように、この間にあるはずの「印象主義」が、この北の土地ではすっぽりと抜け落ちてしまう。

カテゴリ: カルチャー
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top