【ブックハンティング】「ローマ人の物語」が描いた政治の類稀れな回復力

執筆者:岡崎久彦 2007年2月号
カテゴリ: 書評

 なんとも淡々たる終わり方である。これだけの厖大な作品だったことも忘れて、もう終わってしまったのか、という感がある。コンスタンチノープルの陥落まであと八百年を残しながら、ローマ史をユスティニアヌスで終わらせてしまった。 しかし、その理由はちゃんと書いてある。帝の死後四十五年が過ぎた紀元六一三年マホメットが布教を始め、その後地中海世界は忽ちのうちにイスラム勢力によって席捲される。塩野氏によれば、地中海が「内海」でなくなったとき、ローマ世界は消滅したのである。 そういえば、私も、かつてギボンの『ローマ帝国衰亡史』を通読したが、ユスティニアヌスとベリサリウスの挿話以降は、ローマ帝国自体の話はあまり記憶に残っていない。むしろ、その直後のイスラム世界の興隆を記した第五十章以下三章を、現代の中東研究書が遠く及ばない啓蒙主義時代独特の公正客観的なイスラム世界論として、中東関係者に推奨している。そう考えれば、ユスティニアヌスで終わるというのも、大胆ではあるが、見識のある決断である。 本書『ローマ世界の終焉』の「あとがき」に、塩野氏の執筆の動機が書いてある。それはローマの衰亡でなく、興隆を書きたかったということである。

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