クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?
クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

人類はどちらを択ぶ 核兵器か核エネルギーか

徳岡孝夫
執筆者:徳岡孝夫 2007年2月号
カテゴリ: 環境・エネルギー

 平壌放送のアナウンサーがいくら反っくり返っても、彼の言うことは空威張りに聞える。威張れば威張るほど、内容の空疎さが透けて見える。だがテヘラン放送は、ちょっと違う。昔話とはいえ彼らは、前六世紀から前四世紀にかけ古代オリエントを統合したペルシア帝国の残照を背負っている。 金日成=金正日の父子は、米ドル紙幣の贋造と覚醒剤密輸で稼ぐ小帝国を作った。ダレイオスとクセルクセスの父子は、スケールが違う。文字通りの「大王」だった。前者は大軍を率いてボスポラス海峡を渡り、ヨーロッパに攻め入ったが、マラトンで敗れ、その報は一人の走者によって南へ四十キロのアテネにもたらされた。後者は再び古代ギリシャを攻め、テルモピュライの嶮に拠るスパルタ王レオニダスを撃破した。 昔、ギリシャからトルコ、シリア、イラクを経てテヘランまで車で走ったとき、私はペルシア帝国の版図の壮大さに、ただ呆れた。しかもモンゴル帝国の遺跡が大草原の中に雲散霧消したのに反し、ペルシアは帝都ペルセポリスの遺構を残しているのである。 今日なおオリンピック競技の最後には、マラソン走者が捷報を運んだのと同じ距離を走る。ヨーロッパ文明はいまもペルシアを記憶し、記憶の底には一抹の恐怖がある。そのペルシア、今日のイランが巨大な遠心分離機を発注し、濃縮ウランの増産へ突っ走ろうとしている。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫
徳岡孝夫 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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