病気を治すのは「いのちの力」 (12)

悪意あるテレビ報道にどう対処すべきか

執筆者:髙本眞一 2015年2月14日
カテゴリ: 医療・サイエンス

 メディア、特にテレビでは医療をとり上げることが多くなりました。高齢化が進み、国民の健康に対する関心が高まっているからでしょう。医療現場で奮闘する医師や医療従事者のドキュメンタリー、医師を主人公にしたドラマ、地域における医療施設の新たな取り組み、最新の医療技術の紹介などなど――。挙げればきりがありません。特徴としては、どちらかというと医療関係者を肯定するものが多くなっているように思います。フリーアクセスながら安い医療費の陰で、疲弊する医療現場の苦難を、メディアの人々も感じ取っているからかもしれません。
 しかし、つい最近まで真逆の時代がありました。医療過誤で医師が刑事告訴される事件が相次ぎ、激しい医療バッシングが起こった1990年代後半から2000年代前半の時期です。「医師は犯罪者、患者は被害者」の構図をメディアが好んで報道したせいで、患者側は治療に疑心暗鬼となり、正当な医療行為についても疑いの目を向けるようになりました。
 そんな時代、私もテレビ報道の恐ろしさに震撼した経験があります。ある日、ふとテレビを見ていると、私が執刀した手術の映像が流れているではありませんか。個人の名前こそ出ていませんでしたが、「東大の心臓血管外科で医療事故」とのタイトルで、聞こえてくる術者の声は、確かに私のものでした。名前が出ていなくても、すぐに私が執刀しているとわかります。一体何が起きたのか――。テレビの画面を前に呆然としました。弁明をする機会も与えられず、数分に編集された同様の映像が、数日間のうちに、すべてのキー局で流されました。

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執筆者プロフィール
髙本眞一(たかもとしんいち) 1947年兵庫県宝塚市生れ、愛媛県松山市育ち。73年東京大学医学部医学科卒業。78年ハーバード大学医学部、マサチューセッツ総合病院外科研究員、80年埼玉医科大学第1外科講師、87年昭和病院心臓血管外科主任医長、93年国立循環器病センター第2病棟部長、97年東京大学医学部胸部外科教授、98年東京大学大学院医学系研究科心臓外科・呼吸器外科教授、2000年東京大学医学部教務委員長兼任(~2005年)、2009年より三井記念病院院長、東京大学名誉教授に就任し現在に至る。この間、日本胸部外科学会、日本心臓病学会、アジア心臓血管胸部外科学会各会長。アメリカ胸部外科医会(STS)理事、日本心臓血管外科学会理事長、東京都公安委員を歴任。 ↵手術中に超低温下で体部を灌流した酸素飽和度の高い静脈血を脳へ逆行性に自然循環させることで脳の虚血を防ぐ「髙本式逆行性脳灌流法」を開発、弓部大動脈瘤の手術の成功率を飛躍的に向上させたトップクラスの心臓血管外科医。
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