行き先のない旅 (100)

バルセロナに息づく「慈愛の精神」

執筆者:大野ゆり子 2015年3月2日
エリア: ヨーロッパ

 地中海、抜けるような青空、そしてガウディの建築に心惹かれて、バルセロナを目指す観光客は1992年のオリンピック開催後増え続け、年間約750万人にのぼる。一方、あるNGOの調べでは スペイン経済危機以降、仕事と家を失ったホームレスの数は最低でも3000人、そのうち約900人が路上で生活しているという。

 それならば、「観光」に「ホームレスのマンパワー」を活用することはできないだろうか。道という道を、ほかの誰よりも知っている路上生活者に、観光ガイドの仕事を作って雇用を作り出し、ガイドブックには載っていないような、生きた街の魅力を紹介してもらったらどうだろう――バルセロナでマーケットリサーチコンサルタントをしていた英国人女性が、自分自身の失業をきっかけにこう考え、ホームレスがガイドをつとめる「隠れた街のツアー」(Hidden City Tours)というソーシャルプロジェクトを2年前に立ち上げた。現在、所属ガイドは4人。元料理人による市場案内、元建築家の建築案内など、ホームレスに特技を活かしながらガイドをしてもらい、収入だけでなく、社会とのコンタクトへの自信を取り戻してもらうのも、ツアーの狙いだという。【ツアーのホームページへのリンク】

カテゴリ: 社会 政治 カルチャー
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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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