行き先のない旅
行き先のない旅(49)

パリの「暗闇レストラン」体験

大野ゆり子
執筆者:大野ゆり子 2007年6月号
カテゴリ: 国際 文化・歴史
エリア: ヨーロッパ

 現代美術のコレクションで有名なポンピドーセンターにほど近い、パリの中心地に、今、口コミで大人気のレストランがある。週末は数カ月先まで予約で一杯というこの店は、「DANSLE NOIR?」(真っ暗闇の中?)という名前で、三年前に開店した。 人気の理由は、名前が示すように、真っ暗闇の中で食事をすることにある。一見しただけでは、普通のレストランと変わらない。特殊なのは、店内でまずコインロッカーに全ての貴重品を入れ、汚したり、しみをつけたら嫌なものは、脱いで、食卓に向かう身支度をすることだ。 準備が整うと名前を呼ばれ、暗闇の中の席まで案内してくれる「ガイド」さんを紹介される。ガイドさんは全員、このレストランで給仕するトレーニングを数カ月ほど受けた視覚障害者だ。ガイドさんの右肩をしっかりと掴み、ゆっくりと進んでもらって、真っ暗闇の中を客席まで向かうのだが、闇に慣れない目には、これがなかなか難しい。右、左と頭で考えようとすると、かえってわからなくなってしまい、数歩歩くだけで、方向感覚が全くなくなってしまう。 やっとテーブルについて腰掛けて、コースの食事が運ばれるのを待つ。この間に、いつものように、同席した友人と話をしようと声のする方向に顔を向けるのだが、相手の表情が全く見えないと、一人でしゃべっているのではないかと不安になり、お互いにただただ名前を呼び合うだけで、時間は過ぎていく。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子
大野ゆり子 エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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