クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

バージニアの銃弾に隣人の激しさを思う

執筆者:徳岡孝夫 2007年6月号
エリア: 北米

 キャンパスの正面ゲートを出ると、緩い下り坂になっている。五十年近い昔の古い記憶。私は大学から下宿へ、のんびりその道を歩いていた。ニューヨーク州北部の大学町である。 道の真ん中に一台のパトカーが斜めに停まり、警官が二人、車を楯に、私がいま来た方角にピストルの銃口を向けていた。 留学先にまで日本人ならではの平和ボケを持ち込んでいた私は、カッコよく銃を構える二警官を見て「映画のロケかあ」と思った。そのまま歩調を変えず、下宿へ帰った。 ロケでないと知ったのは、翌朝の新聞を見たときである。事件の詳細はすっかり忘れたが、我が住む宿の近くに強盗が入ったと出ていた。ロケにしてはカメラもなく、なるほど監督の姿も見なかった。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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