行き先のない旅 (51)

オペラ劇場総支配人の仕事

 オペラ劇場は、この時期になると、そろそろシーズンを終える。秋に幕を開けるまで二カ月弱の休暇。劇場が閉まるのでトップである劇場総支配人も、ゆっくりとバカンスに出かけるのか、と思いきや、そうではない。名だたる劇場の総支配人たちが、夏の音楽祭の時期、南仏のエクス・オン・プロヴァンス、イギリスのグラインドボーン、ドイツのバイロイト、オーストリアのザルツブルクなどで、休憩時間にシャンパンを片手に情報交換し、配役を考えている歌手の声が自分の期待どおりかなどと調べている姿が見かけられるようになる。 オペラ劇場の総支配人というのは、なかなか日本で想像しにくい職業のひとつではないだろうか。オーケストラ、合唱団、大道具、衣裳などオペラに直接関わるスタッフ、事務職を加えると、相当な人数に給与を払うわけだから、健全な経営者としての責任、管理能力が問われるのはもちろんである。多くの劇場は国や自治体からの補助金を受けている。これはイコール税金である。お高くとまっていると思われがちなオペラ劇場だが、社会に貢献するという問題意識がなければ、今ではこの職は務まらない。以前、本欄で紹介した刑務所でのコーラスの活動や、貧困地域、老人ホームでの音楽指導、子供たちの教育プログラムなど各劇場は知恵を絞っている。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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