中東―危機の震源を読む
中東―危機の震源を読む(34)

混迷続くレバノン 宗派主義体制の岐路に

池内恵
執筆者:池内恵 2007年10月号
カテゴリ: 国際
エリア: 中東

 レバノン政治で混迷が続く。最大の争点は、十一月に任期の切れるラフード大統領の後任の選出である。大統領選出には一院制の議会(国民議会)で三分の二の得票が必要だが、政情は膠着状態で、選出の見込みは立たない。昨夏のヒズブッラー(ヒズボラ)とイスラエルの戦闘でヒズブッラーが政治的勝利を収めた勢いで、親シリア派は議会の三分の一の議席で得られる拒否権を振りかざし、議会であらゆる決定を不可能にしている。大統領と拮抗する権限を有するセニオラ首相と内閣は、ヒズブッラーをはじめとするシーア派の閣僚引き揚げによって正統性の危機に瀕している。 一方、首相と議会多数派の側も、シリアの関与が濃厚な二〇〇五年二月のハリーリー元首相暗殺をめぐる国際法廷の受け入れを推し進めて親シリア派を追い込もうとする。重要問題に関して大統領と首相の見解が食い違い、議会では次期大統領選出の手順にすら合意ができていない。一九七五年から九〇年の内戦の再来が危惧される展開である。 きわめて複雑な対立の陣営を大まかに色分けすれば「反シリア派の首相・議会多数派」対「親シリア派の議会少数派と大統領・国会議長」ということになる。 大統領選出をめぐる対立の前哨戦として、議会少数派は内閣改造による「挙国一致内閣」を要求しているが、言い換えると、これは内閣にも親シリア派を三分の一以上入れろという要求である。レバノンでは、憲法改正や国際合意など主要議題のことごとくに、全大臣の「三分の二以上」の賛成を必要とする。親シリア派が内閣の三分の一を占めればいっそう幅広く拒否権を獲得することになるだけに、セニオラ首相と反シリア派がこれを容認するのは難しい。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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