石油市場をめぐる「常識」はこれだけ変わった

執筆者:五十嵐卓 2007年11月号

どうやらわれわれの眼前には「石油新世界」が広がっている。これまでの“経験に基づく知識”を捨て、つぶさに眺めると……。「オクラホマの農民がドライブに行くかどうかで、原油市況が動く」。一九八〇年代、石油専門家が原油市場の変動の複雑さを示すのにしばしば使った表現だ。農民が遠くにドライブに行けば、ガソリン消費は当然増える。だが、もちろんそれだけで世界の原油価格が押し上げられるはずはない。この言葉が意味するのは、オクラホマのような田舎ですら世界の石油市況に関係するほど米国の石油消費動向が大きな影響力を持っていることであり、石油消費の中でもとりわけ自動車がカギを握っているという点だ。 だが、今や世界の石油市況を動かすのは「メキシコ湾のハリケーン」だ。ハリケーンがどこまで発達し、どこに向かうかを石油市場は注視する。米メキシコ湾岸の油田設備や製油所に向かえば、原油出荷や石油製品の生産に打撃を与える懸念が生じ、石油価格は急騰する。ハリケーンが右を向くか、左を向くか、という自然現象のもたらす偶然が、市況の有力な決定要因になったのだ。「オクラホマの農民」から「メキシコ湾のハリケーン」への転換が実は、石油市場を動かす論理の変化を映し出している。ドライブに出た農民のピックアップトラックのエンジンが消費するガソリンという実需ではなく、ハリケーンの進路によって石油関連施設が受ける被害の大小を予想し、価格上昇の期待が持てれば「買い」に入る投機の台頭だ。

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