行き先のない旅 (55)

イエローキャブを飾った子供たちの塗り絵

執筆者:大野ゆり子 2007年12月号
エリア: 北米

 ニューヨーク(NY)のオペラ、コンサートなどの観客数は、二〇〇一年九月十一日直後、激減したという。明日、どんな運命が待っているかわからない、という恐怖心が、人々の行動パターンを変えてしまったようだ。私たちの周囲でも、敏腕アーティストマネージャーとして知られていた女性が、まだ小さい子供のそばにできるだけ居てあげたいと、仕事を辞めた。 何よりも家族との時間を優先したいというのは、テロ直後の、多くのニューヨーカーの共通した心理だったようだ。子供をベビーシッターに預け、夫婦で大人同士の時間を食事やコンサート、オペラで過ごしていた比較的余裕のある層が、夜の外出を止めてしまった。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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