インテリジェンス・ナウ
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“核の盗人”カーンを泳がせ続けたCIAの大いなる罪と責任

春名幹男
執筆者:春名幹男 2008年1月号
カテゴリ: 国際

 二〇〇五年、パキスタンでの取材から帰ってきて約一カ月後のことだった。イスラマバードで開拓した取材源から国際電話がかかってきた。「CIA(米中央情報局)はカーン博士を泳がせていたんだが、米安保戦略のコア(核心)にかかわる国に核兵器技術を提供しようとしたから、ブッシュ政権は阻止したんだ」 A. Q. カーン博士、パキスタンの「核兵器の父」である。〇四年二月、国営テレビに登場して、核兵器技術を拡散させたことを懺悔し、自宅軟禁処分を受けた。自ら率いるカーン研究所が構築した「核の闇市場」を通じてリビア、イラン、北朝鮮はもちろん、未確認だがサウジアラビアやシリアにまでも核技術を売り渡し、遂に米政府の逆鱗に触れたというのだ。 カーン博士が告白する約四カ月前の〇三年十月六日。アーミテージ米国務副長官がパキスタンでムシャラフ大統領と会談、核の闇市場の証拠を次々と挙げた。まるで「博士の体に発信機を取り付けていたのか」と思うほど詳しい内容だったという。 核の闇市場をめぐっては当初からCIAなどが絡んだ暗闘が繰り広げられていたのだ。 事件に最初に気付いたのはオランダの防諜機関だった。内務省国家治安局(BVD、現在の総合情報治安局=AIVD)は一九七五年秋、当時FDOというアムステルダムの会社で働いていたカーン博士がウラン濃縮技術を盗んだ事実を察知した。その会社は西独、英、オランダのウラン濃縮合弁会社URENCO系の企業だった。オランダ当局はカーン博士に対しURENCO施設への立ち入り禁止処分を科し、警察にも通報した。

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執筆者プロフィール
春名幹男
春名幹男 1946年京都市生れ。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒業。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授を経て、現在、早稲田大学客員教授。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『スパイはなんでも知っている』(新潮社)などがある。
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