中国政府には選べない「賢明なシナリオ」

執筆者:田中明彦 2008年5月号
カテゴリ: 国際 外交・安全保障
エリア: 中国・台湾 日本

 オリンピックとチベット、この二つが現在の中国におけるナショナリズムの問題を象徴している。オリンピックが象徴する中国は、急成長し発展する中国である。アヘン戦争以来の屈辱の世紀をへて、いまや、世界の舞台の上で、最も華々しいイベントを執り行なえる。開会式には世界各国の元首級の人物がならび、中国におけるオリンピックの開催を祝う。われわれ中国人は、もはや誰にも見下されない。世界をリードすることすらできるだろう。中国ナショナリズムの夢の実現である。 しかし、チベットをめぐる最近の騒乱は、いかに中国に住む人々が心の面で一つのネーションを形成していないかを示してしまった。圧倒的多数を占める漢族の人々と、少数民族すべてとはいわないにしても、すくなくともチベット族の人々との間の心の溝は、深くかつ暗い。チベット問題への中国政府の対応をみて、世界各地で批判が続き、このままでは、オリンピックの開会式に出席する意向を表明していた政治指導者の数は激減するかもしれない。 このような外国からの批判を前にして、漢族を中心とする中国ナショナリズムは激高している。屈辱の歴史を過去のものとして、オリンピック開催によって「一つの中国」の偉大さを示そうとするわれわれを、かつての帝国主義者たちが、再び、妨害しようとしている。このように反発するのである。

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