中東―危機の震源を読む
中東―危機の震源を読む(42)

またもや各地で市街戦 レバノン「液状化」の危機

池内恵
執筆者:池内恵 2008年6月号
カテゴリ: 国際 金融
エリア: 中東

 レバノン情勢の摩擦が高まり、火花を散らしている。五月七日から首都ベイルートや北部のトリポリなど各地で市街戦が行なわれており、五月十二日までに各地の戦闘で五十三名の死者が確認されている。局地的には一九七五年から九〇年にかけて吹き荒れたレバノン内戦を髣髴とさせるような光景が現れている。全面的な内戦には当面は至らないだろうという見通しが大半だが、近い将来に混乱が収束する兆しもない。 直接の発端は、五月三日にシニョーラ政権に参画するワリード・ジュンブラート急進社会主義党党首が口火を切ったヒズブッラー(ヒズボラ)非難である。ヒズブッラーがベイルート国際空港に監視カメラを設置し、レバノン各宗派・党派の要人の動きを監視しているというのである。また独自の電話網を敷設しており、いずれにもイランの支援が入っているというのである。 ヒズブッラーは監視カメラについて否定しているが、いかにもありそうな話である。むしろヒズブッラーがそのような情報収集をしていないほうが不思議なくらいだ。ベイルート空港はベイルート南の郊外に位置する。レバノン南部のシーア派が多い地域から都市周辺に移住してくる低所得層が集まる区画であり、ヒズブッラーはここに強固な勢力地盤を築いた。国際貿易と金融・情報産業を基礎とするレバノンのほとんど唯一の世界への窓口は、ヒズブッラーの支持基盤の只中に位置していることになる。独自の電話網敷設をヒズブッラーは否定していないが、それは「イスラエルに対する抵抗運動のために必要」であると主張しており、悪びれる様子はない。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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