中東―危機の震源を読む
中東―危機の震源を読む(43)

「オバマ大統領」誕生が道徳上の力となる可能性

池内恵
執筆者:池内恵 2008年7月号
カテゴリ: 国際
エリア: 中東 北米

 米国民主党の大統領選挙候補者予備選挙で、バラク・オバマ上院議員がようやく勝利したようだ。もしオバマが本選挙も勝ち抜いた場合、米国の中東政策はどう変わるのだろうか。選挙戦略としての発言と、実際に大統領として実施しうる政策には隔たりがあるだろうから、現時点で有意義な予想はできない。 ここでは一部で議論になっていた「イスラーム教徒としてのオバマ」という問題について考えてみたい。選挙戦を通じて、共和党系・保守派の陣営からは、オバマの父親がムスリム(イスラーム教徒)であったという点が言及されてきた。インターネット上で、チェーンメールなどにより、「オバマは実は熱心なイスラーム教信者である」という噂が巡った。多くの保守的なアメリカ市民にとってはイスラーム教からはテロリズムがもっぱら連想されるという点を突いた中傷だろう。 道理としてはオバマがムスリムだったとしてもなんら問題はないはずで、「オバマがムスリムである」と噂することが「中傷」となってはならないはずだが、米国の文脈ではキリスト教徒以外が、そしてムスリムが大統領に当選することなど論外、というのが実態だろう。 オバマのフルネームは「バラク・フセイン・オバマ」である。オバマが二歳の時に妻と息子の元を去ったケニア人の実父が「バラク・フセイン・オバマ」という名で、それを受け継いだのだという。ミドルネームの「フセイン」を執拗に強調する嫌がらせを受けたことがあったが、そもそもファーストネームの「バラク」にしても、アラビア語のbarak(「神の祝福」を意味する)を起源とする。Barackと綴っているのはケニアで使われるスワヒリ語を介したからだろう。エジプトの大統領「ムバーラク」(「神に祝福された者」の意味)も同じ語根からくる名前である。アラビア語とヘブライ語は同じセム語族の言語であり、イスラエルの元首相で現副首相兼国防相の「バラク」も同様の意味である。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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