私が犯罪によって妻を失ったのは一九九七年十月、本村洋君が最愛の妻弥生さんと生後十一カ月の夕夏ちゃんを失ったのが、一年半後の一九九九年の四月である。私は六十八歳、本村君が二十三歳のときだが、その精神状態は驚くほど似ていた。 一家の主の最大の義務は、家族の安全を守ることである。しかしながら、私の妻は、仕事上で私を逆恨みしていた男に殺害された。私は、家族の安全を守ることができなかったばかりでなく、家族を犠牲にすることによって命が助かった。自責の念に苦しみ、死を願い、妻の倒れていた場所で凍死を試みたこともあった。本村君も、家族を守れなかったことに苦しみ、死を覚悟して遺書まで書いていた。
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