北京五輪を支えた「中華」のあなどれない効力

野嶋剛
執筆者:野嶋剛 2008年10月号
カテゴリ: 国際
エリア: 中国・台湾

台湾すらも包含できる便利なキーワード、それが“中華”だ。「海外サポーター」を巧妙に使う中国の作戦は、まずは図に当たった。[台北発]北京五輪は「中国の五輪」であると同時に「中華の五輪」だったのではないか。五輪最終日、「鳥の巣」で行なわれた閉会式セレモニーをテレビで見ながらそう感じた。 八万人の拍手を浴びながらステージで「北京、北京、我愛北京」を歌った六人の歌手。中国出身は孫楠、譚晶、韓雪の三人だけだった。残りは台湾の王力宏、香港のケリー・チャン(陳慧琳)、韓国のRAIN。そして閉会式の締めくくりでも、香港のジャッキー・チェン、アンディ・ラウ(劉徳華)、シンガポールのステファニー・スン(孫燕姿)ら中華世界のスターが勢ぞろいし、五輪のフィナーレを告げた。 中国の発展ぶりを世界に示す五輪で、なぜ中国出身以外の芸能人を起用したのか。そこには北京五輪を通じ、「中華」という概念のもと、新しいアジア秩序の形成を目指す中国の野心が透けて見える。台湾、香港、シンガポール、韓国など“構成員”からの動員とは対照的に日本の歌手が呼ばれなかったことは興味深い。 たかが歌手と軽く見てはならない。かつて中国ではテレサ・テン(トウ麗君)とトウ小平の影響力を同列に称して「昼の世界を小平が制し、夜の世界を麗君が制した」と評された。中国にとって歌謡や演劇は革命以来の非常に重要な宣伝工作の一つであり、はやりの言葉でいえば「ソフトパワー」なのである。

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執筆者プロフィール
野嶋剛
野嶋剛 1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に「イラク戦争従軍記」(朝日新聞社)、「ふたつの故宮博物院」(新潮選書)、「謎の名画・清明上河図」(勉誠出版)、「銀輪の巨人ジャイアント」(東洋経済新報社)、「ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち」(講談社)、「認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾」(明石書店)、訳書に「チャイニーズ・ライフ」(明石書店)。
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