行き先のない旅 (65)

南オセチアのある演奏会が世界に広げた波紋

執筆者:大野ゆり子 2008年10月号
エリア: ヨーロッパ

 オープンエアコンサートと呼ばれる野外コンサートは、クラシック音楽界の夏の風物詩である。観客はTシャツやジーンズなど気軽な服装で、通りすがりに足を止めて、好きな曲だけ楽しむことができる。料金は無料だし、愉快で軽やかなプログラムが組まれるのが普通だ。 ところが、八月下旬に行なわれたある演奏会では、あまりにも様子が違っていた。演奏会の会場は、南オセチアの州都ツヒンバリ。オープンエアは、グルジア側の攻撃によって破壊された場所で催され、オセチア人の犠牲者を追悼するために行なわれたのだった。 ロシアとグルジアの対立は混迷を極め、その一因がオセチア人人口の多い南オセチアにあることは周知の事実だ。ロシア政府は、ロシア国籍をもつ南オセチア住民の保護を理由に軍事介入。南オセチア自治州のグルジアからの独立を承認した。西側は一様にロシアを非難し、グルジア寄りの姿勢を見せている。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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