経済の頭で考えたこと
経済の頭で考えたこと(10)

米オバマ政権の財務長官に課される難題

田中直毅
執筆者:田中直毅 2008年12月号
エリア: 北米

 ブッシュ大統領のもとで政治的にも経済的にも大きな亀裂の入った米国。その「チェンジ(改革)」を委ねられたバラク・オバマ次期米国大統領の第一期(二〇〇九―一三年)を占ってみよう。フーバー大統領から一九三三年に大統領職を奪い取ったフランクリン・ルーズベルトの時代と対比されるほどの転機を迎えた米国なるがゆえに――オバマだからではなく、米国であるがゆえに、先行き予想されるシナリオは全世界を巻き込むものにならざるをえない。日本は米国に次ぐ経済規模を今日までとにもかくにも維持してきたのだから、米国の行方に深い関心を払わざるをえないのは当然だ。「押入れ」に移した「散らかし物」 喫緊かつ最大の課題は、もちろん経済だ。そしてそこでは、次期財務長官が誰になるのかが米国のシナリオにとって決定的な要因となろう。クリントン政権におけるロバート・ルービン財務長官は、次期財務長官の役割を考える上でひとつの手引きとなるだろう。クリントン政権のもとで持ちえた影響力は、彼が非議員で、かつ民主党とは従来関係が薄かった投資銀行ゴールドマン・サックスの経営者出身であったにもかかわらず、巨大なものだった。 銀行と証券業務とを区分してきたグラス・スティーガル法が廃止されたのは一九九九年で、ルービンの評価が最も高かったときだ。金融の証券化を後押しするようにして、クリントン大統領(当時)に歴史的潮流を認識させた結果である。中国のWTO(世界貿易機関)加盟を巡っても財務長官が議会工作を行なった。中国共産党内における改革派を支援し、中国を開放体制に移行させるには、WTOの枠組みの内部に中国を組み込むことが望ましいという論理に徹した。しかし、繊維や衣料などの産業を中心にして中国が米国の雇用を奪うという側面が強まっていたため、当時の米国議会では中国側の提示するWTO加盟に当たっての緩和された条件などのめないという雰囲気が支配していた。このためルービンの説得は功を奏さなかった。結果として中国のWTO加盟は、中国側が自らのみのリスク負担で踏み出す以外に途はなくなった。

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執筆者プロフィール
田中直毅
田中直毅 国際公共政策研究センター理事長。1945年生れ。国民経済研究協会主任研究員を経て、84年より本格的に評論活動を始める。専門は国際政治・経済。2007年4月から現職。政府審議会委員を多数歴任。著書に『最後の十年 日本経済の構想』(日本経済新聞社)、『マネーが止まった』(講談社)などがある。
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