日本企業買収「ミタルの脅威」は去ったのか

執筆者:村上直哉 2009年3月号
カテゴリ: 経済・ビジネス 金融

景気後退でフトコロが苦しくなり、他社の買収どころではないとの声もあるが、逆に「今こそ」優秀な日本企業を狙うとの見方も……。[ジャカルタ発]「もうミタルには、買収なんてそんな余裕はないんじゃないのかな」。昨年十二月三日、インドネシアの首都ジャカルタを訪れた神戸製鋼所の犬伏泰夫社長はそうつぶやいた。犬伏社長が初めて足を踏み入れたこのジャワ島は、鉄鋼世界最大手アルセロール・ミタルを率いるラクシュミ・ミタル会長の“創業の地”でもある。 ミタル氏はここから事業を始め、わずか二十年足らずで世界中の鉄鋼メーカーを次々と買収し、鉄鋼王にのし上がった。この二年余り、買収の矛先は日本など北東アジアの大手鉄鋼メーカーに向いていると噂されてきた。日本、韓国、中国のメーカーの粗鋼生産量は実に全世界の四五%を占めるうえ、中国を中心に今後も旺盛な鉄鋼需要が見込めるからだ。この地域はミタルにとって唯一の生産拠点の空白地帯。とりわけ日本には、鉄鉱石から銑鉄を生産するための高炉を持つ高炉大手が新日本製鉄やJFEスチール、神戸製鋼所など四社もあり、いつどこが買収対象になってもおかしくなかった。 しかし、昨年秋以来の金融危機の直撃を受け、ミタルはいま、大幅減産を強いられている。これまでは新興国の旺盛な需要に呼応し、拡大路線をひた走ってきた。粗鋼生産量は世界の一割を超え、株式時価総額は一千億ドル(約九兆円)を突破した。だが、昨年秋には膨大な余剰資産を抱えているとして、市場の信任を失った。昨年六月時点で新日本製鉄の四倍強だった時価総額が、現在は二倍弱にまでしぼんでいる。買収どころか、資産の売却を迫られている状況だ。

この記事は役に立ちましたか?
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
この記事をSNSにシェアする
執筆者プロフィール
comment:0
icon
  • 記事の閲覧、コメントの投稿には、会員登録が必要になります。
フォーサイトのお申し込み
注目記事ランキング
  • 24時間
  • 1週間
  • f
  • 新着
  • 高評価
  • コメント数順