タイの王女を再三再四“熱烈歓迎”これぞ中国外交の深謀遠慮

樋泉克夫
執筆者:樋泉克夫 2009年6月号
カテゴリ: 国際

 タイでタクシン元首相を支持する赤シャツ勢力による反政府活動が過激に展開されていた四月上旬、プミポン国王に次いで国民的敬愛を集めているシリントーン王女(一九五五年生まれ)は、昨年の北京オリンピック期間を含む過去の訪中時に自身が撮影した写真展の開催を期して、北京に滞在していた。 王女と中国の結びつきは極めて密接だ。八一年から今回まで訪中回数は実に二十七回。西はカシュガル、東は吉林、北はロシアとの国境の黒河、南は海南島の三亜、西南はチベットのラサと、ほぼ全土に足を運んでいる。九〇年以降は年に一回以上で一週間前後滞在し、さらに二〇〇一年二月半ばから一カ月ほどは北京に語学留学。この間、李嵐清副首相、唐家セン外相ら中国政府要人に加え、北京滞在中のカンボジアのシアヌーク国王・王妃とも面談している(肩書き・立場はいずれも当時)。なにやら中国政府は王女を「タイ有数の中国通」に仕立て上げることを通じ、タイ内政の動向に大きな影響力を保持する王室との間に太いパイプを築こうとしているように思えてならない。 タイ国軍からは過去の政治的権能が失せる一方、八〇年代初頭以来、政治的危機を乗り越える際に決定的役割を果たしてきた国王の肉体的衰えが目立つようになった。であればこそ、今後のタイ政治の方向を見定める上で、王室がどのような政治的立場をとるかは極めて重要なポイントだろう。王室一家の中で国王に最も近いといわれる王女に的を絞った中国外交の“深謀遠慮”を読み取るべきだ。

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執筆者プロフィール
樋泉克夫
樋泉克夫 愛知大学教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年より現職。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
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