【インタビュー】野田秀樹(劇作家) 演劇が取り戻させる「考える」という豊かな時間

執筆者:徳永京子 2009年7月号

 日本には千三百近い公立の劇場、ホールがある(二〇〇八年時点)。その中に都立の劇場がいくつあるかご存知だろうか。 答えは一館。池袋にある東京芸術劇場(以下、芸劇)のみなのである。しかもこの芸劇、十九年前に建てられてからほとんど貸し出し公演の会場に使われてきた。つまり日本の首都・東京は、演劇やダンスという文化に関して、公的な発信機能が弱かった。だが〇八年、都の芸術文化振興政策が大幅に見直され、芸劇に初めて芸術監督が置かれることになった。就任するのは、劇作家で演出家の野田秀樹さん(五三)だ。「芸術監督とは何かということよりも、劇場という場所が果たす役割について考えた結果、この話を受けることにしたと言ったほうが正しいかな」 就任の要請を受けた理由を、野田さんはそう切り出した。「時代がどんどん“無記名”になっているでしょう? 誰が言い出したのかわからない意見が、知らない内に世の中全体を覆っている。俺が劇団夢の遊眠社を解散(一九九二年)する頃からそういう状況はあったけど、ネットが普及して加速しているよね。よくないことだと思うんだ」 何にとってよくないのか。文化にとって、だ。「演劇に限った問題ではないと思うけど、どうも今、ものづくりの現場でつくり手が主導権を握っていない気がする。周辺から出てくるよくわからない意見によって、いつの間にか大切なことが決められてしまうんだ。たとえば“お客が入る舞台をつくるには、テレビで人気のある役者を使わなければ”とかね。そういう人が出演する舞台ももちろんいいけど、そこから話が始まるのは明らかにおかしい」

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