中東―危機の震源を読む
中東―危機の震源を読む(56)

イランはどこへ向かうのか

池内恵
執筆者:池内恵 2009年8月号
カテゴリ: 国際
エリア: 中東

イスラーム革命体制を解放ではなく桎梏と感じる若い世代がイランに台頭している。ムーサヴィー候補の大量得票が示したのは、まさにその事実である。中東政治の変動の核心に迫る。 一九七九年のイラン革命によって成立したイランのイスラーム共和制が岐路に立たされている。 イスラーム共和制とは、いわば「神意」と「民意」を共に反映すると主張する体制である。「ファキーフ(法学者)」と呼ばれる宗教指導者たちが、「神意」を推し量る権限を持っている。同時に、大統領や国会議員を選挙で選出し、国民の意志を表出して政治に反映させる民主主義の制度を併せ持つ、独特の混合政治体制である。この「神意」と「民意」に齟齬と乖離があることが明白となったのが、六月十二日に行なわれた今回のイラン大統領選挙だった。政府が発表した開票結果に疑義が生じ、再投票を求める群衆と治安部隊が衝突を繰り返している。アフマディネジャード政権の正当性だけでなくイスラーム共和制そのものの信頼性が問われる事態である。 神意と民意が齟齬をきたすことは、シーア派の宗教・政治思想の観点からは「あり得ない」。「神意」が「民意」に一致しないはずはなく、「民意」が神の命令に背くことは許されない、という信念からである。しかし現実には双方の対立は潜在的に問題であり続けてきた。イラン革命当時は、ホメイニのカリスマによって双方の調和が体現され、齟齬や対立は覆い隠されていた。また、八〇年代を通じて戦われたイラクとの戦争は国民を結束させ、体制批判や問い直しは後回しにされた。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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