【ブックハンティング】イスラームを正視する珠玉の論考集

執筆者:渡辺靖 2009年10月号
カテゴリ: 国際 書評
エリア: 中東

 私にとってイスラーム研究者とは常に気を重くさせる存在である。理由は単純で、彼らにアメリカを批判されると沈黙するほかないからだ。 むろん、アメリカを研究することとアメリカを擁護することは違う。巷では「アメリカ研究者=親米派」という誤解があるようだが、例えば、アメリカ学会などではアメリカの中東政策に批判的な論調が支配的だ。イラク開戦の際には、百名以上の会員有志が「不支持」の声明に署名したほどである。 しかし、イスラーム研究者の側から「アメリカ帝国主義」「欧米中心主義」という言葉が発せられると、その時点でアメリカに関わるニュアンスある理解はすべて葬り去られ、思考と対話は停止してしまう。イスラーム研究者との間に流れるそんな絶望的なまでの沈黙が惜しく、かつ堪え難いのだ。「アメリカのイスラーム報道は偏向している」と批判される。では、イスラームのアメリカ報道は偏向していないのか。「アメリカはイスラーム教徒を敵視している」と糾弾される。では、アメリカが一九四〇年代後半と五〇年代にフランス領北アフリカの反植民地主義者に対して与えた支援はどう説明すれば良いのか。個人的なイスラームへの思い入れの強さからか、研究対象として十分に客体化されていない議論を目にすることも少なくない。とりわけイラク戦争以降は、世界的な反米・嫌米のムードと相俟って、こうした傾向が助長された印象を受ける。

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執筆者プロフィール
渡辺靖 1967年生まれ。1990年上智大学外国語学部卒業後、1992年ハーバード大学大学院修了、1997年Ph.D.(社会人類学)取得。ケンブリッジ大学、オクスフォード大学、ハーバード大学客員研究員を経て、2006年より現職。専門は文化人類学、文化政策論、アメリカ研究。2005年日本学士院学術奨励賞受賞。著書に『アフター・アメリカ―ボストニアンの軌跡と〈文化の政治学〉』(サントリー学芸賞)、『アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所』、『アメリカン・センター アメリカの国際文化戦略』などがある。今年10月に岩波新書から最新刊『アメリカン・デモクラシーの逆説』が刊行された。
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