行き先のない旅
行き先のない旅(77)

パンデミックと向き合うフランスの「流儀」

大野ゆり子
執筆者:大野ゆり子 2009年10月号
カテゴリ: 国際
エリア: ヨーロッパ

 二十一世紀初のパンデミックになった「新型インフルエンザ(H1N1)」。フランス政府は感染拡大期が今年の秋にピークを迎える場合を想定して、新たに感染予防を呼びかけ始めた。企業でもかなり徹底した社員教育が試みられている。 多くの感染者が軽症で回復している現時点では、季節性インフルエンザを恐れる以上にパニックに陥る必要はないと言われる。それでも予防をし過ぎることはない。フランスには「用心は安全の母」という諺もある。 学校や自治体での取り組みは春頃から耳にしていたが、会社での予防体制が呼びかけられるようになったのは、WHO(世界保健機関)がフェーズを六にしたごく最近のこと。社を挙げて対策を始めないと、禁煙問題や環境問題と同じように、企業が社会に対して道義的責任を果たしていない、というような雰囲気になり出している。 予防の呼びかけには、日本と同じような「手を洗う」「うがいをする」「くしゃみや咳は手で顔を覆う」といった基本的な生活習慣を徹底するという注意から、ひょっとしたら、ヨーロッパ人の生活習慣やカルチャーを一時的にせよ、変えてしまうのではないかと思うものまである。 たとえば、鼻をかむという習慣。西欧人はちり紙ではなく、ハンカチで音を立てて鼻をかむ。日本から来た者は誰でもショックを受けるが、たとえシャネルスーツで美しく着飾った婦人でも例外ではない。しかし、今回の新型インフルエンザでも、ウイルスが付着したものへの接触が感染経路になる。そのため、絶対にハンカチではなくちり紙で鼻をかみ即刻捨てることを政府は呼びかけている。儀礼的な握手もむやみにしないようにという声もある。考えてみると、日本のお辞儀のほうが、人と人の一定の距離が自ずと保たれている訳だ。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子
大野ゆり子 エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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