現代主流派経済学の源となったベンサムの功利主義思想

執筆者:堂目卓生 2009年12月号
カテゴリ: 経済・ビジネス

「自然は人類を苦痛と快楽という二人の主人の支配のもとにおいてきた。われわれが何をしなければならないかを指示し、また、われわれが何をするであろうかを決定するのは、ただ苦痛と快楽だけである」(ベンサム『道徳および立法の諸原理序説』一七八九) アダム・スミスが個人の行動を規制する原理として「同感」を重視したのに対し、イギリスの哲学者ジェレミー・ベンサム(一七四八―一八三二)は、自分の快楽を求め苦痛を避けるという原理―利己主義の原理―こそ、究極的な原理であるとした。そして、立法者が採るべき善悪の判断基準は、諸個人の幸福を足しあわせた社会全体の幸福を最大にするという原理、すなわち最大多数の最大幸福原理であるとした。これがベンサムの功利主義思想である。 ベンサムは、功利主義の立場に立って、さまざまな社会改革を考案した。まず、彼は慣習法に基礎を置くイギリスの法制度を改革することを訴えた。法は、伝統や慣習によってではなく、その時代における最大多数の最大幸福を考慮して制定され、改正されるのが合理的であった。ベンサムにとって、スミスの『道徳感情論』は、同感によって形成される慣習を社会秩序の基礎として守ろうとする点で、不合理かつ保守的な思想の書であった。

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執筆者プロフィール
堂目卓生 大阪大学大学院教授。1959年生れ。京都大学大学院博士課程修了(経済学博士)。18世紀および19世紀のイギリスの経済学を専門とし、経済学の思想的・人間学的基礎を研究。おもに英語圏の学術誌で論文を発表してきた。著書『アダム・スミス――「道徳感情論」と「国富論」の世界』(中公新書)でサントリー学芸賞受賞。
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