クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

トップ記事と無視 船員とダライ・ラマの差

執筆者:徳岡孝夫 2009年12月号
エリア: アジア

 日々の退屈なニュースの中に、想像もできない宝石が混っている。虚構を扱う小説家なら、「あ、これは奇想天外すぎるわ」と捨てたであろう筋書が、現実の世界にある。私は八丈島沖から生還した三人の漁船員の話を新聞で読んで、ほとほと感心した。小説より奇なりとはこれか、と思った。 海は時化ていた。八人が乗った漁船は転覆した。 調理室の大型冷蔵庫が倒れ、外開きドアを塞いだ。三人は居住区に閉じ込められた。船長と先に出た四人は、一瞬の差で「生」をつかんだはずだった。台風二十号が来て、現場海域を通って去った。捜索は一時中断。四日目、九十時間。家族は、もうダメだと覚悟した。

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