【インタビュー】イ・チュンニョル(映画監督) 「牛の鈴音」が韓国に呼び覚ましたもの

執筆者:草生亜紀子 2010年1月号
エリア: 朝鮮半島

 大きな出来事もない静かなドキュメンタリー「牛の鈴音」が二〇〇八年、韓国で社会現象となり、国際映画祭で数々の賞に輝いた。登場するのは、痛々しいほどに老いた一頭の役牛(韓国では仕事牛と呼ぶ)と、無口で偏屈なおじいさん、そして悪態をつき続けるおばあさん。舞台は、首都ソウルの東南百七十キロの慶尚北道奉化郡の田舎の村である。「最初はアート作品を専門とする七館のみで公開したところ、十代後半から二十代の若い観客から良い反応があり、『ぜひ両親に見せたい』と、上の世代を連れてきてくれました。さらに口コミが広がって、最終的には韓国のドキュメンタリー映画の動員数としては前例のない三百万人を超える人が見てくれました」と、イ・チュンニョル監督(四三)は語る。 構想は十年越しだった。一九九七年のアジア通貨危機で多くの「父親」が仕事を失い苦労した。自分たちと国を育ててくれた韓国の「父親たち」に感謝する映画を作りたいと思ったのがきっかけだったという。農家出身のイ監督は、その気持ちを、近代化の中で失われていくものの象徴である仕事牛と農夫に託そうと考えた。「私は勉強が嫌いで、漫画ばかり読んでいた。でも、韓国ではいい大学に行くことが親孝行なので、期待に沿うべく無理して高麗大学に入りました。本当はアニメの勉強をするために日本に留学したかった。目標を見失った私は、とりあえず演出の勉強でもしようとフリーのテレビプロデューサーになったものの、不安定な生活は十五年にも及んでしまいました。

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