クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

大地震と豪華客船 救済か偽善か

執筆者:徳岡孝夫 2010年3月号
エリア: 中南米

 ことさらに「節目」を言う人がいる。私は人生が過ぎゆくときも黙って見送りたい方なので、国家や人の運命にいちいち節目を感じたり感慨を催したりしない。だが先日、横浜港・大桟橋に近いレストランに座っていて、ふと「この海、この桟橋、船出したのは五十年前だ」とグッと感じた。一九六〇年七月、私は横浜港からアメリカへ向け旅立った。 当時、ジェット旅客機はすでに就航し始めていたが、速いかわり高かった。米国務省は留学生には贅沢だと判断したらしい。われわれ二十数人の若い日本人は、プレジデント・クリーブランド号の三段ベッドの一つ一つを割り当てられ、ドラの音と共に大桟橋を離れた。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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