オバマ政権の命運を決する米中間選挙のメカニズム

執筆者:渡辺将人 2010年9月1日
カテゴリ: 国際 金融
エリア: 北米
選挙結果が今後の政策を左右する (c)EPA=時事
選挙結果が今後の政策を左右する (c)EPA=時事

 アメリカ中間選挙(11月2日)が2カ月後に迫った。中間選挙では連邦議会の下院の全議席(435議席)と上院100議席の約3分の1(今回は37議席)が改選される。  大統領選挙に比べると中間選挙は地味な印象が拭えない。しかし、法案の実現に議会が絶大な力を持つアメリカでは、中間選挙で大統領側の政党が多数派を維持できるかどうかは、政権運営にとって死活問題である。  1994年の中間選挙で民主党が大敗した際、クリントン政権は野心的な政策を諦め、大幅な中道化を余儀無くされている。2006年の中間選挙では共和党が敗北してブッシュ政権が機能不全に陥り、急速にレームダック化したことは記憶に新しい。  現オバマ政権は上下両院で民主党が多数派を握るという好条件にある。しかし、中間選挙で共和党と民主党の議席の逆転が起きれば、オバマ政権の望む法案は実現が難しくなる。まさにオバマ政権の命運を決める選挙なのだ。

「オバマの議席」を守れるか

 2010年5月末のある週末、シカゴ郊外で地元民主党のリベラル派による内輪の戦略会議が開かれた。議題は改選になるイリノイ州選出の連邦上院議員に同州財務官のアレクシー・ジャヌリアスを当選させることだった。
 11月2日の中間選挙で、民主党と共和党が伯仲するイリノイ州は重点選挙区のひとつだ。2010年1月のマサチューセッツ州の上院補欠選挙で、民主党は故エドワード・ケネディの議席を共和党に奪われ、医療保険改革の実現が一時危機に瀕した。かつて大統領自身が務めていたイリノイ州の「オバマの議席」は「ケネディの議席」に増して象徴的な意味合いを持つ。共和党に譲り渡すことはオバマ政権にとって許されない。
現職のバリス上院議員(民主党・イリノイ州選出)は、議席売買をめぐる汚職で失脚したブラゴジェビッチ州知事が送り込んだ人物で、クリーンな新人への一新も求められている。オバマの大統領選勝利直後、上院の後釜候補として噂されたのは、シャコウスキー連邦下院議員や後にオバマ政権で退役軍人省次官補に就任したダックワースらの女性陣だった。しかし、知事が強引に任命したのは側近で黒人のバリス元州司法長官だった。
「上院に唯一の黒人議員がいなくなる」という理由で、ラッシュ下院議員らアフリカ系有力者が黒人を強く望んだことも影響した。この議席は黒人女性のキャロル・モズリー・ブラウンから、共和党の白人男性を一期だけ挟み、オバマが引き継いだものだ。女性にせよ、黒人にせよ、民主党にとってはマイノリティ議席という暗黙の了解があった。イリノイ州の上院2議席のうち民主党が有するもう1議席が、白人男性(ダービン上院議員)であることも無関係ではない。
 しかし、オバマは人種対立を乗り越える「脱人種」路線で白人票も多数獲得して勝利した。「上院に最低1人は黒人を」という古典的な「人種の論理」は、本来は「オバマの時代」らしさに逆行する。前述のシカゴでの戦略会議でも、エスニックなアイデンティティは棚上げし、ギリシャ系2世のジャヌリアスを一丸となって支える決意が改めて確認された。
 ユダヤ系の州議会女性議員は「イスラエル政策が最優先項目にならなくても仕方ない」と述べ、ギリシャ正教の白人男性を「オバマの議席」に据える決意を語った。「進歩派の選挙区向けの大切なメッセージは?」「外交政策への言及が薄いが、朝鮮半島、イランへの対応は?」出席した党関係者からの矢継ぎ早の尋問に、候補者のジャヌリアスは丁寧に答えた。本選に向け候補者の弱点を点検し、細かなアドバイスを与えて演説力を鍛えるのも、こうした会合の目的だ。
 ジャヌリアスは地元シカゴ大学を経てボストン大学に学んだ。対抗馬で50歳の共和党カーク下院議員に対して、弱冠34歳という圧倒的な若さは武器だ。
 8月5日に開かれたパーティにはオバマ大統領も出席し、100万ドル近くの資金獲得に貢献している。そこでオバマとジャヌリアスが強調したのは、ブッシュ政権の経済政策に逆戻りするか、それとも民主党オバマ政権の努力を信じるかの二択だった。経済の停滞と失業率の回復の遅れに苛立つ選挙民に対し、前共和党政権が問題の種を撒いたことを強調する戦略である。

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執筆者プロフィール
渡辺将人 1975年生れ。シカゴ大学大学院国際関係論課程修了。米下院議員事務所、上院選本部などを経て、2001年テレビ東京入社。政治部記者などを務め、08年コロンビア大学、ジョージワシントン大学客員研究員。2010年より現職。第5回中曽根康弘賞優秀賞受賞。著書に『見えないアメリカ』(講談社現代新書)、『オバマのアメリカ』(幻冬舎新書)、『現代アメリカ選挙の集票過程』(日本評論社)、『評伝バラク・オバマ』(集英社)ほか。
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