「訪中」は金正日の焦りか

平井久志
執筆者:平井久志 2010年9月1日
カテゴリ: 国際 金融
8月27日、中国の吉林省長春市で胡錦濤国家主席(右)と握手する北朝鮮の金正日労働党総書記(30日夜の中国中央テレビのニュースから)(C)時事通信社
8月27日、中国の吉林省長春市で胡錦濤国家主席(右)と握手する北朝鮮の金正日労働党総書記(30日夜の中国中央テレビのニュースから)(C)時事通信社

 朝鮮半島情勢は3月の韓国哨戒艦沈没以降、米国、韓国、日本という西側勢力と、北朝鮮に配慮する中国、ロシアの旧東側勢力の対峙という冷戦構造の復活を 思わせる対立構造が顕在化した。特に、黄海での軍事演習をめぐり、米国と中国が激しいヘゲモニー争いを展開し、朝鮮半島を取り巻く厳しい現実を見せつけている。  カーター元米大統領の訪朝で、情勢は対話局面へと動くかに見えた。だが、金正日(キム・ジョンイル)総書記は訪朝したカーター元大統領と会談せずに突然 訪中し、中国重視の姿勢を明確にした。そして、北朝鮮は9月上旬の朝鮮労働党代表者会の開催で後継体制へ向けた党の再整備を目指す。めまぐるしい動きの背 景にある実相を、ひとつずつ解析していこう。

強まる米韓の軍事圧力

 米韓両国は当初、哨戒艦が沈没した黄海で6月に大規模軍事訓練を実施する計画を立てたが、国連安全保障理事会での対応を見極めるために7月に先送りした。
 黄海での米韓合同軍事演習には北朝鮮はもちろん、中国も「断固反対する」と強く反発した。中国は北朝鮮を口実にした米国の軍事的な思惑に危機感を深め、人民解放軍が6月下旬から東シナ海で実弾射撃訓練、7月17、18日には煙台付近の黄海で兵力救助や武器輸送の訓練を行なうなど米韓側の演習を牽制した。しかし、米国は「公海の訓練はわれわれが決定する問題」と中国側の動きに対抗した。
 こうした中、米韓両国は合同演習「不屈の意志」を7月25日から4日間実施したが、中国に配慮し、黄海ではなく日本海で実施した。演習には、横須賀を母港とする原子力空母ジョージ・ワシントン(約9万7千トン)など艦船20隻や、米空軍嘉手納基地に一時配備中の最新鋭ステルス戦闘機F22Aラプター(韓国との演習には初参加)を含め航空機200機も参加した。さらに、日本も海上自衛官4人が初めて米韓演習にオブザーバー参加し、日米韓の共同歩調を誇示した。
 また、韓国軍は8月5日から9日まで、黄海で陸海空軍と海兵隊の兵力計約4500人と艦艇20隻以上、航空機約50機を動員した大規模な海上機動訓練を実施した。
 米国防総省報道官は8月5日、具体的な時期を明らかにしないまま、米韓両軍の合同軍事演習の一環として、黄海に米原子力空母ジョージ・ワシントンを派遣すると発表し、ジョージ・ワシントンの黄海派遣を断念したわけではないことを強調した。
 さらに、米韓両国は定例の軍事演習である「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」を8月16日から26日に実施した。9月5日から9日までは、対潜水艦軍事演習を黄海で実施する計画だ。米国は韓国哨戒艦を沈没させた北朝鮮の潜水艦への防衛を錦の御旗に、中国ののど元で軍事演習を展開する構えなのだ。
 これに対し、中国は6月末から8月初めまで8回にわたる軍事訓練を行ない、さらに米韓の黄海演習に先立つ9月1日から4日まで青島沖の黄海で実弾訓練を実施する。米韓への反発は強まり、緊張が高まっている。

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執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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