オバマのジレンマ

執筆者:渡部恒雄 2010年9月3日
カテゴリ: 国際
エリア: 北米

 池内さん、興味深いご指摘ありがとうございます(池内恵さんのコメントはこちらhttp://www.fsight.jp/blog/5672)。オバマ政権が、ブッシュ政権との違いとして意識して行っていることの一つに、他国の民主主義に極端に介入する「ネオコン」的な手法を控え、あくまでプラクティカルな実利を追求するという方向性があります。もちろん、米国の政権ですし、民主党内には民主化イデオロギーの強い勢力がありますから、言葉では「中東の民主化」という旗印は降ろせませんが、現実的には民主化介入圧力を減らしております。

 例えば、ワシントンポストの記事によれば、ブッシュ政権時代の2008年には中東の民主化プログラムに5480万ドルを計上し、その中のグラスルーツの民主化運動などに市民社会プログラムとして、2785万ドルが提供されていました。しかし、ブッシュ政権内のネオコン勢力の影響が低下して、予算削減圧力も高まったブッシュ政権の最後には削減を行い、2010年度予算で民主化プログラムは2000万ドルに削減され、市民社会プログラムには500万ドルしか供給されなかったようです。オバマ政権は基本的にこの少ないレベルの予算を継続しています。

 したがってご指摘の件も、少なくとも、オバマ政権はガマール氏の政敵を利するような民主化プロモートは控えるのではないでしょうか。ムバラク政権が弾圧してくれているムスリム同胞団のような過激なグループの活動が活発化するのもいやでしょうし。ただし、事実上の世襲の承認を積極的に行うこともなるべく避けるのではないでしょうか。実際には積極的に世襲を支援しなくても、民主化運動が盛り上がらなければ、ガマール氏が有利だからです。例えば、2008年にストライキを行ってムバラク政権に投獄された労働運動の指導者のKamal al-Fayoumiは昨年の10月にワシントンポストのインタビューに「オバマ大統領には大いなる不満がある。彼はムバラク政権に民衆をやりたいように処遇することにグリーンライトをだした」と答えている。そのような意味でオバマ政権は批判の対象になるかもしれませんが、そのあたりはうまくバランスをとることは可能なような気がします。いずれにせよ、ブッシュ政権の初期の頃のような民主化イデオロギーが、現実の中東地域の安定にマイナスの影響がでるような事態になるよりははるかにまし、といえるでしょう。あとは、米国内の世論が、現実か理念かという相反する要素でどちらに傾くかは、支持が落ちているオバマ大統領自身の体力次第というところでしょうか。

 私がエジプトの世襲で興味があるのは、いずれにせよムバラク大統領が退任する時期は来るわけで、よほど次のリーダーにカリスマ性がない限り、これまでの中東の盟主というエジプトの地位がゆらぐことになるはずです。それにより、例えば、エジプトの地位は着実に影響力を増しているトルコのような国にとって代わられるのかどうか、その場合、中東のバランスはどのように変わっていくのか、という点です。(渡部恒雄)

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執筆者プロフィール
渡部恒雄 わたなべ・つねお 東京財団上席研究員。1963年生れ。東北大学歯学部卒業後、歯科医師を経て米ニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチで政治学修士号を取得。1996年より米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員、2003年3月より同上級研究員として、日本の政党政治、外交政策、日米関係などの研究に携わる。05年に帰国し、三井物産戦略研究所を経て現職。著書に『「今のアメリカ」がわかる本』など。
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