党代表者会に中央委員全員を改選する権限はあるのか?

執筆者:平井久志 2010年9月8日
タグ: 中国
エリア: アジア

「一体、いつやるのだ」という苛立ちにも似た声も聞かれる朝鮮労働党代表者会ですが、7日付けの朝鮮中央通信によると、金正日総書記はこうした外部社会の注視をもてあそぶかのように朝鮮人民軍第963部隊所属の芸術宣伝隊による公演を観覧しました。中国から帰って初めての動静報道です。
 さて、代表者会開催までのわずかの間の、ささやかな問題提起をしたいと思います。
 それは、今回の党代表者会で党中央委員の改選が行われ、三男、金正銀氏が中央委員に選出され、さらに要職につくのではという観測報道が続いていますが、果たして、党代表者会に党中央委員を全面的に改選する権限があるのかどうかという問題です。
 「朝鮮労働党規約」では第3章の「党の中央組織」の中の第22条で「党大会の議事は次の通りである」と規定し、その第4項目で「党中央委員会と党中央検査委員会を選挙する」と規定しています。
 党中央委員の全面的な改選ができる権限を持っているのは「党大会」なのです。
 党代表者会については第30条で規定していますが
「党代表者会の代表選出比率とその選挙手続きは党中央委員会が規定する。
 党代表者会は党の路線と政策および戦略・戦術に関する緊急な問題を討議決定し、自己の義務を果たしていない党中央委員、委員候補、準委員候補を召喚し、委員および委員候補、準委員候補の補欠選挙を行う」―となっています。
 つまり、党中央委員の選挙ができるのは党大会であり、党代表者会は「自己の義務を果たしていない」委員の補充ができるだけなのです。
 これが、私が9月1日に当サイトに上げた原稿で、今回の党代表者会の注目点の4番目に「党中央委員会全員が改選され、党指導部の世代交代が行なわれるかどうかだ」を上げた理由です。
 党規約を無視して、全面改選を行うのか、補充にとどまるのかに注目したいわけです。もちろん、1980年の第6回党大会で中央委員になった145人中、今年初めの段階で生存しているのは68人に過ぎませんから、これをすべて補充すればこれでもかなりな世代交代は可能です。
 後継体制を準備するなら、本来、世代交代を断行するべきでしょう。しかし、この問題が気になるのは先に行われた内閣の改造で首相や副首相に選ばれた崔永林首相を含め大変な高齢で、とても後継体制を準備している内閣改造と思えなかったからです。全面的な中央委員の改選は2012年になるのではないかという思いが捨てきれないのです。
 これは私が金正銀氏が党政治局の常務委員に就任するなど「全面的な登場」をするという見方に否定的な理由の一つでもあります。党代表者会開催はまもなくです。結果が注目されます。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
平井久志(ひらいひさし) ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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