工事遅れ、汚職、選手村にもダメ出し――ニューデリー英連邦競技大会に暗雲

執筆者:山田剛 2010年9月10日

 成長著しい大国インドを世界にアピールするため、同国政府が満を持して臨む英連邦競技大会(コモンウェルス・ゲームズ)は、10月3日から首都ニューデリーで開催される。だが、スタジアムや連絡道路の建設は予定より大幅に遅れ、不適切な工事契約や汚職疑惑が次々と表面化。大会本部からは選手村の衛生状態にダメ出しされる始末。インド政府が公約した「史上最高の大会」はおろか、予定通りの開幕すら危うい状況に追い込まれつつある。「倍旧の努力をもって、何とか開幕に間に合わせてほしい」――。大会開幕まであと5週間となった8月末、メーン会場のジャワハルラル・ネール・スタジアムを視察したマンモハン・シン首相はこう述べて関係者にハッパをかけた。すでにデリー市政府のディクシット首相も「コモンウェルス・ゲームズ関連の工事は予定より遅れている」と認めている。旧英植民地を中心に71カ国が参加し、12日間にわたり17競技約260種目を行う大会の初主催に向け、インド政府は総予算70億ドル以上をつぎ込んだほか、大会に合わせてニューデリー国際空港の新ターミナル建設や、デリーメトロ(都市高速鉄道)の延伸など、インフラ整備にも力を注いできた。またニューデリー市内の「名物」でもある約10万人の物乞いを一掃するため、当局は昨年秋から「移動裁判所」を導入、その場で物乞いを社会復帰施設に収容する「判決」を下して首都の「浄化」を図ってきた。ふだんあまり自国の恥部を隠蔽しようとしないインドだが、中国もかくやと思える徹底ぶりに、英連邦大会にかける政府の意気込みが覗える。だが、目玉と期待されていたジャマイカの陸上短距離世界記録保持者ウサイン・ボルト選手ら花形アスリートが軒並み不参加を決めるなど、アジアなどではもちろん、英連邦域内でも関心はいまひとつ盛り上がらない。折り悪しくもモンスーン(雨季)の真っ只中で、工事はあちこちで遅れ気味。今なお市内19ヵ所の会場と6つのスタジアム、およびその周辺の道路などそこかしこで槌音が響き、街路樹の植え込み作業や看板の設営などが文字通り昼夜兼行で続いている。さらに甘い見積もりのため建設コストが当初計画よりも膨れ上がる事態も続発している。さらに大会準備を巡っては、放映権料や資材調達などでの不透明な契約や、建築基準を満たさぬ資材の使用、果ては大会役員らによる汚職疑惑までもが相次ぎ取りざたされ、すでに役員ら関係者4人が職務遂行に絡む不祥事や疑惑で辞任、または解任されるなど、インドにとっての歴史的なスポーツイベントには早くからケチがついた格好だ。挙句の果てには、8月に競技会場を視察した英連邦大会本部のマイク・フェンネル会長自ら「建物を作るだけは選手村とはいえない」と述べ、選手宿舎の衛生環境などに苦言を呈した。同会長は9月中旬にもインド側組織委員会に対し、会場建設の遅れなどなどを理由に大会の成功に懸念を表明するに至った。構想の立案やデザインには類まれな才能を発揮するインド人だが、なぜか実際のマネジメントやイベント運営など、決めたことを実行するのは苦手だとよく言われる。一連の混乱はこの定説を裏付けたようだ。  大会の組織委員会は首相肝いりでもあり、中央政府からはインド最高の頭脳集団である多数のIAS(インド上級国家公務員)が派遣されているはずだ。やはり機能的な組織づくりや末端への指揮・命令系統の構築など、大きなイベントを限られた時間できっちり運営するための総合力はまだまだ欠如している、というところだろう。しかし、これまでのパターンから予測するとこの大会、途中にいくつもの混乱や失敗はあっても全体としては何とか大きな破綻なく乗り切り、最後にはインド政府とインド人が「成功した」と宣言してしまうような気がしてならない。最後に帳尻を合わせることもまた彼らの特技だから。仮にそれすらも失敗していよいよ世界から笑われたとき、インドは今度こそ本当に反省して抜本的なシステムの改善に乗り出すのではないだろうか。それはそれで、インドにとって悪い話ではない。              (山田 剛)

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執筆者プロフィール
山田剛 日本経済研究センター主任研究員。1963年生れ。日本経済新聞社入社後、国際部、商品部などを経て、97年にバーレーン支局長兼テヘラン支局長、2004年にニューデリー支局長。08年から現職。中東・イスラム世界やインド・南アジアの経済・政治を専門とする。著書に『知識ゼロからのインド経済入門』(幻冬舎)などがある。
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