「成長戦略」を“政局の道具”に使った菅首相の経済無策

執筆者:富山創一朗 2010年9月17日
エリア: 日本

 民主党代表選は菅直人首相の勝利に終わったが、日本を包む苦境は何ら変わらない。今後、最も問われることになるのは、菅内閣の経済政策だろう。
 菅首相は代表選挙戦真っ只中の9月9日、「新成長戦略実現会議」の初会合を首相官邸で開いた。自らが議長となり、主要閣僚のほか、日銀総裁や日本経団連会長など民間人が加わるこの実現会議は、自民党時代に官邸主導のシンボル的存在になった「経済財政諮問会議」を真似たものであることは間違いない。
 だが、菅首相がこの会議を作った目的はもっと直截なものだった。代表選で「強い経済を実現できるのは自分しかいない」ということをアピールするため、自らのリーダーシップの象徴として設置して見せただけなのだ。

小沢氏出馬で突然蘇った「成長戦略実現会議」

復活した理由は……(新成長戦略実現会議の初会合) (c)時事
復活した理由は……(新成長戦略実現会議の初会合) (c)時事

 なぜならば実はこの実現会議、一度は設立が頓挫していたのである。8月中旬のことだ。成長戦略の実現を担うためには首相のリーダーシップが発揮できる何らかの会議体が必要だ、という一部閣僚からの声を、仙谷由人官房長官が握り潰したのである。「成長戦略の実現は内閣官房を中心にやる。新たな会議体は必要ない」というのが仙谷氏の意見だった。  もともと、6月中旬にまとまった成長戦略は、国家戦略室が中心になって実行していく予定だった。菅政権では、荒井聡・衆院議員が国家戦略担当大臣、平岡秀夫・衆院議員が国家戦略室長に就いたが、いずれも菅氏に近い議員だ。菅氏は側近たちに成長戦略の実行を任せようとしたわけだが、これにも仙谷氏が反発した。国家戦略室が内閣官房の対抗軸として権力を握りかねないと思ったのだろうか。菅氏は参院選で大敗すると、わずか3日後に国家戦略室の機能縮小を表明した。成長戦略は内閣官房で担当することになったが、具体的に動き出す見込みは立たなかった。  それが9月に入って、急転直下、実現会議が設置されたのは、菅氏の決断だ。小沢一郎・前幹事長の代表選出馬が決まり、政策論争の柱が必要になったからに他ならない。この段階では仙谷氏は口を挟む余地はなかった。選挙戦に入る直前、鳩山由紀夫氏が間に入って「挙党態勢」を求めたが、その際、小沢氏側が求めたとされるのが、仙谷氏更迭だったからだ。菅首相がそれを蹴って代表選を戦う以上、菅氏の決断に仙谷氏が異論をはさむことなどできようはずはない。当初、実現会議の事務局は内閣官房に置くという議論もあったが、結局、国家戦略室が担う方向となった。  では菅氏は、実現会議を使って何をやろうとしているのだろうか。  初会合の席上、菅首相は、企業の国際競争力を高めるため、主要国に比べて高い法人税実効税率の引き下げが必要だと述べ、出席した全閣僚に年末までに結論を出すように指示した。つまり「法人税率引き下げ」である。  財務省の統計によると、日本の法人税の実効税率は40.69%。米国の40.75%と肩を並べるものの、フランスの33.33%、ドイツの29.41%、英国の28.00%など欧州主要国よりも高い。さらにアジアで競合関係にある国々の法人税率はさらに低く、中国は25.00%、韓国は24.20%といった具合だ。  菅内閣がまとめた新成長戦略では、日本の法人税率を25-30%に引き下げる方針を盛り込んだのだ。実現会議の首相指示によって、2011年度の税制改正に盛り込まれる可能性が高くなったわけだ。  代表選では経済の立て直しが政策論議の中心になったが、菅首相が掲げた法人税減税は果たして成長戦略の切り札なのだろうか。つまり、税率を下げれば、企業の活力が増し、経済は成長する、というのは本当だろうか。

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