北朝鮮「党代表者会」を前に見えてきたこと

平井久志
執筆者:平井久志 2010年9月24日
カテゴリ: 国際
エリア: 朝鮮半島
慈江道の鉱山を視察する金正日総書記。報じられたのは9月11日だが、実際に視察をした日時は不明(C)AFP/HO/KCNA via KNS
慈江道の鉱山を視察する金正日総書記。報じられたのは9月11日だが、実際に視察をした日時は不明(C)AFP/HO/KCNA via KNS

 朝鮮労働党代表者会準備委員会は9月21日早朝、朝鮮労働党代表者会を9月28日に平壌で開催すると発表した。  しかし、党政治局が6月23日付決定で「9月上旬」とした開催時期が遅れた理由については言及しなかった。  状況を総合的に見れば、北朝鮮は当初、9月7日の代表者会開催を目指したとみられる。しかし、地方からの代表を平壌に留め置いたまま日が過ぎ、「9月上旬」という言葉を最大限に解釈した15日になっても開催されなかった。韓国のNGOの情報では、このころ地方代表をいったん地元へ帰らせたとみられる。  北朝鮮の公式メディアは開催延期について何の言及もしていないが、平壌在住の国際機関には水害とその復旧のためという説明がなされたようだ。

延期の理由は水害だけではない

 党代表者会の延期理由としては(1)台風などの水害(2)金正日(キム・ジョンイル)総書記の健康問題(3)権力構造決定での調整難航――の3つが考えられる。
 8月13日から18日まで北朝鮮を訪問したアントニオ猪木氏は朝日友好親善協会の朴根光(パク・クングァン)会長(党国際部副部長)から「大洪水のために(党代表者会を)延期した」と聞いたと明らかにした。
 北朝鮮では8月下旬の豪雨により中朝国境を流れる鴨緑江で大規模な洪水が発生、新義州では大きな被害が出た。世界食糧計画(WFP)平壌事務所は、暫定集計で住民2万3000人が被災、避難したとした。さらに9月初めには台風7号による被害が出た。
 しかし、朝鮮中央通信が台風7号被害を報じたのは9月15日で、「全国で数十人の死者が出て、約3300棟、約8380世帯の住宅が破壊された」とした。
 北朝鮮のメディアは最近、海外からの支援獲得のために自然災害などについては比較的迅速に報じる傾向がある。新義州の水害は深刻であったが、それは織り込み済みで党代表者会の準備が進められた。台風7号の被害を報じた9月15日付の朝鮮中央通信の報道はあまりに遅すぎ、党代表者会の延期を理由付けるために、この時期に報じられた感がある。
 9月上旬に北朝鮮を旅行した人の話では、板門店など各地を回ったが水害を実感できなかったという。朝鮮中央通信による台風7号の被害報道も新義州の被害に比べるとそれほど大きくなく、新義州など一部の地域を除いて、地方の代表が平壌へ行けないほど水害が深刻であったかどうかは疑問だ。特に、金正日総書記が参加する「1号行事」に対して、代表が水害を理由に平壌へ行けないというのは理解に苦しむ。
 北朝鮮当局は、今回の延期について正式発表を避けながらも、水害のためという最も無難な理由付けをしている感触だ。
 ただし、後継者体制を準備するのであれば、ある程度の祝賀の雰囲気の中で党代表者会を開催すべきで、各地方で水害復旧にあたる地方責任者がすべて不在というのは住民の反発を買う危険性があり、こうしたことを配慮した可能性はある。

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執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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