行き先のない旅 (85)

ストに悩まされるオペラの秋

執筆者:大野ゆり子 2010年10月8日
エリア: ヨーロッパ
フランスの新幹線、TGVも間引き運転(C)AFP=時事
フランスの新幹線、TGVも間引き運転(C)AFP=時事

 秋のオペラシーズンが開幕して以来、フランスのストライキに悩まされ続けている。先月、リヨン国立歌劇場管弦楽団とともに、夫がパリ公演をしたが、その夜にサルコジ政権の年金改革法案に反対して、交通機関がストライキに入った。コンサート開始は20時。ストライキ開始は19時。オーケストラの団員は午前中にリヨンからパリに移動していたために、演奏会は無事に終わったが、翌日の帰りの新幹線(TGV)は、2本に1本の間引き運転。買っていたチケットを次の列車に変えるなど、劇場側はストライキに振り回された。  しかし、こうなると乗客も国鉄も「スト慣れ」してくる。国鉄のウェブサイトには、運休する列車が随時アップされ、問い合わせれば列車の運行状況を乗客の携帯メールに送ってくれる。ここまでサービスするぐらいなら、普通に運行したほうが簡単なのではと思うが、労働組合にとっては「スト権の主張」が大切らしい。  サルコジ政権は年金赤字の解消のため、公的年金の支給開始年齢を、60歳から62歳に引き上げることを柱にした年金改革法案を下院で通した。上院で可決されれば、年金開始年齢は、毎年4カ月ずつ引き上げられ、1956年生まれの人は、2018年に62歳から支給開始されることになる。これに反対するストライキは、9月7日、23日、10月2日とすでに3回行われ、デモに参加した人は組合側の発表によると、数百万人にのぼる。  この原稿を書いている最中に、労働組合から4度目のストライキ決行が発表された。次回は10月12日。交通機関や病院関係者、公務員などの組合が同調を呼び掛けている。この日はよりによって、夫が毎晩遅くまで練習しているオペラ公演の初日。予定どおり12日に幕を開けてしまうと、観客の出足に影響し、劇場内部にも労組に同調する者が出て、舞台に差し支えるかもしれない。そう判断して劇場側は12日の公演を諦め、翌日を初日にすると発表した。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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